科目名 現代社会と法Ⅱ
単位数 2.0
担当者 広島平和研究所 准教授 河上暁弘
履修時期 後期
履修対象 2年・3年・4年
概要  およそ法学(法律学)の学習は、憲法・法律(制定法)の条文の暗記ではない。現実社会―家族・生活共同体、地域社会、国家、国際社会等―において起こる諸問題を解決するためのきまりがあり、その解決に当たるためにその存在が認められている公権力(政府機構・公務員)自体にも勝手な振る舞いができないようにするきまりが法である。そのため、法学の学習では、社会に起こる現実具体的な諸問題それ自体を見る目とそれを法によって解決する理論を学ぶことが重要である。講義では、日本のさまざまな法律にかかわる詳細な知識を身につけること以前に、「法的思考」、すなわち、広い視野に立って、諸々の社会事象を認識した上で、論理的な道筋を立て、バランス感覚を持って、世の中の揉め事を解決する総合的判断能力(「リーガル・マインド」)を培うことが目的となる。そして、何よりも重要だと思われるのは、法をつくるのは人間自身であり、それゆえ人間自身およびそれが創る社会自体への関心・洞察が必要だということである。人間は、文明化の過程の中で、紛争を暴力・武力で解決するのではなく、法と裁判の手続きで解決するよう転換してきた。未だその途上にあるのだが、少なくとも弱肉強食の社会よりは、弱者・少数者といえども、道理に適った説得力のある理論によって、いかに力の強い者に対しても対等にわたりあうことができる可能性を持つに至ったということである。もっとも、法的知識は、使う者に人権意識等が欠如するならば、社会的弱者を虐げ支配する道具にもできる面も持つ。その危うさも十分に認識しつつ、諸個人が本人なりに幸せなよりよき人生を送り、またよりよき社会を創造しようとするとき、法的思考と法的知識は大いに役立つものと思われる。そうしたことのための素材を授業において提起して行ければと思う。授業ではなるべく現実社会の中で生じている具体的な問題を提示して行きたいと思うので、その関連で自らの考えを深めてもらいたい。
 今年度は、副題として、「平和と法」と題して、日本国憲法の平和主義をめぐる問題を中心的な題材として扱い、「現代社会と法」という問題を考えたいと思う。「現代社会と法Ⅱ」では、「憲法政策としての平和」を題材としたい。
なお、参考まで、本講義は、毎年、各年度ごとに、(「平和と法」「教育と法」「民主主義と法」「地方自治と法」といった風に)「○○と法」といった副題をつけて、憲法問題を中心として、異なったテーマを扱っていくことを予定している。
科目の到達目標  法学・憲法学で求められるのは、条文を丸暗記したり、重要単語を覚えたりすることではない。「なぜ人類にとって憲法というものが必要なのか?」、「何のため、誰のためのルールなのか?」ということを常に考えてほしい。
 憲法は、一人ひとりのかけがえのない人権を確実に保障するために、国家(政府機構)を創設し、権限を授権するとともに、その権力行使のあり方に縛りをかける法である。その意味で、為政者・権力担当者がまずもってそれを尊重・遵守することが求められるし、民主主義制度の下では、主権者である国民は、人権侵害や憲法違反が起こらないかについて、常に権力担当者を監視し、批判と参画を通じて、政治を制御することが求められる。こうしたことの意味についてよく理解した上で、あるべき政治や社会のあり方、現実政治の置かれた状況等について、多様な視点から(特に反対意見や少数意見から十分に学び)真摯に考えてほしい。
受講要件  ※本講義受講前に、「法学(日本国憲法)」を受講していることが望ましい。これは必須要件ではないが、本講義の内容は、一応、「法学(日本国憲法)」の延長線上にあり、またその応用的内容を扱うという位置づけになっているので、「法学(日本国憲法)」を先に受講することをおすすめしたい。
 また同様に、本講義受講前に、「現代社会と法Ⅰ」を受講していることが望ましい。これまた必須要件ではないが、Ⅰの講義の方で、方法論について言及する部分を含んでいるため、それを踏まえて本講義を受講した方がより深い理解が可能となるように思われるからである。ご検討いただきたい。
 
※講義の教材(レジュメ・資料)は、学内講義支援webシステム「It's Class」に、各回事前掲載する。
受講生は、必ず、各自事前にダウンロード・印刷をして、講義に持参してほしい。
(ただし、第1回目は、こちらで用意する予定。しかし、受講生の数は前もってはわからないこともあり、配布資料の数が足りなくなることもないとは言えないので、できれば、第1回目から、各自のダウンロード・印刷にご協力いただければ幸いである。)
 レジュメ・資料は、受講生の復習や今後の研究にも役立つと思われるものをアップロードするつもりなので、その分、量も多く詳細なものとなる予定である。講義では、そうしたレジュメ等に記されていることの全部ではなく、その「要点」をとりあげて解説することとしたい。
 一般に、大学における講義とは、その科目の学習のすべてではなく、導入・スタート地点あるいは問題提起に過ぎず、そこで提示された論点等を受講生各自が資料や専門書等を活用して調べて深めることが求められる。「与えられた」知識を覚えればよいというこれまでの受動的な学習と異なり、講義で提起された論点や問題提起を正確に理解した上で、自ら調べ自ら考えるという積極的・能動的な学習をすることが求められるのが大学であるということを知っておいて頂きたい。そうした学習に役立つようなレジュメ・資料を提供したいと考えている。

 また、そもそも、講義は、教師と学生の双方が共同でつくりあげるべきものであって、片方だけがすばらしいということはあり得ない。また、通常、法学の学習は一朝一夕にできるものではないので、持続的で積極的な講義への出席・参加を求めたい。講義において提供した文献・資料等は(予習・復習等に際して)必ず十分に読み込むことを求めたい。

私は、大学生を一人の「大人」として扱う。また受講者全員・一人一人の目と表情を見ながら一対一で対話をするかのような姿勢で講義をすることを旨としている。大学教員と学生は、立場と役割が異なり、また教える教わるという関係性もあるが、一人の人間としては、本来は、もはや対等な大人同士の関係と私自身は認識している。
ということは、学生一人一人の意見や個性や立場を尊重しようとしているということであると同時に、(冒頭から意図的に居眠りをする、私語をする、あくびの際に口に手を当てない、不要に携帯電話を操作するなどのような)あからさまに失礼・無礼な受講態度をとる受講生に関しては、その相手を、一人の人間として軽蔑するということも意味する。
また、大学の講義では、精神的には自立した「大人」であるとみなしている全学生に対して、客観的な分析(認識)と主観的な意見(実践)を区別しつつ、教員自身の学説も紹介することがしばしばある。講義はなるべく批判的・多角的な視点を持ちながら聴き、各自、専門書等に当たり、自ら調べ考える姿勢を持って頂きたい。
大学は真理探究の場である。大学生たるもの、メディアやインターネット等を通じてあらわれる世の中の「常識」や多数意見、あるいは極論や俗説に、安易に流されることなく、社会を歴史的・構造的に見る自分なりの視座を持つことを目指してもらいたい。自らが自らの人生の主人公であるとともに、社会を創造する主体であることに鑑み、常に「どうあるべきか(価値論、理念)」、「どうあるか(現状分析)」、「どうするか(実践論)」という3つの視点から、自己と社会を分析してもらいたい。とにかく自分なりの意見を持つこと、そして他者(特に意見の異なる者)の意見をよく聞き、agree to disagreeの立場から、よく意見交換・議論し、安易なレッテル貼りなどすることなく、むしろその違いからこそ学ぶ態度を大切にしてもらいたい。
事前・事後学修の内容 講義の教材(レジュメ・資料)は、学内講義支援webシステム「It's Class」に、各回事前掲載する。
受講生は、必ず、各自事前にダウンロード・印刷をして、講義に持参してほしいし、それを講義前に読み込んでほしい。

そして、法律学の学習において、何よりも重要なのが、事後学習(復習)である。
講義で取り上げたポイントをよく思い出しながら、講義教材(レジュメ・資料)をもう一度よく読みこむことがまず重要である。さらに、可能ならば、参考書(後述)や図書館等にある憲法の教科書、そして毎回のレジュメの最後の方に記載してある「参考文献」を読み、応用的な学習を常に心がけて頂きたい。
講義内容 本年度は、以下のような、講義内容を予定している。ただし、講義参加者の要望や憲法をめぐる政治・社会情勢等により、順序や内容を変更することがある(なるべくホットなテーマをとりあげたい)。また、その結果、テーマを変更したり、すべてのテーマをとりあげないこともありうるので、ご理解を頂きたい。

1 近代世界の平和構想 現代戦争とカントの永遠平和論
2 近代日本の平和構想 国権論と民権論の相克
3 憲法9条と「現実主義」(1)「国」を守るとは
4 憲法9条と「現実主義」(2)日本の安全保障環境と現実主義
5 憲法学界と内閣法制局の憲法9条解釈
6 戦後日本の「平和」の構造(1)「豊かさ」と平和
7 戦後日本の「平和」の構造(2)日本企業の海外進出と憲法改正論
8 戦後日本の「平和」の構造(3)集団的自衛権行使・安保法制の論点
9 戦後日本の平和運動と対抗構想
10 憲法研究者の平和構想(1)深瀬忠一構想三部作
11 憲法研究者の平和構想(2)サンダーバード提案
12 憲法研究者の平和構想(3)福祉国家構想研究会
13 地方自治と平和
14 戦争違法化論と世界連邦論
15 戦後日本の平和構想を振り返って 

評価方法 基本的に学期末試験(記述式)によって評価する。
ただし、中間期にレポートを課すので、その提出および内容を、評価に迷った場合には、加点要素として加味する。同様に、出席や講義受講態度についても、評価に迷った場合には、加点要素として、加味する(過去の経験上、出席やレポートを参照する割合が多かった)。
なお、私としては全力で講義を行うつもりなので、90分間、真剣かつ全力で講義に出席したいと考えている方のみ出席して頂きたい。評価は基本的に学期末試験によって行うので、無理に出席点を稼ぐという姿勢は本講義については必要ない。しかし、積極的な講義参加を期待している。
教科書等 A.教科書:
講義の教材(レジュメ・資料)は、学内講義支援webシステム「It's Class」に、各回事前に掲載(アップロード)するので、各自ダウンロード・印刷をして講義当日必ず持参して欲しい(予習・復習にも活用して欲しい)。なお、そのため、若干の用紙代(数百円程度)が必要となる可能性があることを前もって理解して欲しい。その他、参考となる教材や資料を指定・例示することもある。

B.参考書:
渡辺治・福祉国家構想研究会『日米安保と戦争法に代わる選択肢』大月書店、2016年
和田英夫・小林直樹・深瀬忠一・古川純『平和憲法の創造的展開』学陽書房、1987年
深瀬忠一『戦争放棄と平和的生存権』岩波書店、1987年
河上暁弘『日本国憲法第9条成立の思想的淵源の研究』専修大学出版局、2006年
河上暁弘『平和と市民自治の憲法理論』敬文堂、2012年
担当者プロフィール 富山県富山市生まれ。中央大学法学部政治学科卒業、中央大学大学院法学研究科公法専攻博士前期課程修了、専修大学大学院法学研究科公法学専攻博士後期課程修了、博士(法学)。中央大学人文科学研究所客員研究員、明星大学人文学部非常勤講師などを経て、2008年4月より広島市立大学広島平和研究所講師、2014年4月より現職。
専門は、憲法学、地方自治論、人権論等。主著として、河上暁弘著『平和と市民自治の憲法理論』(敬文堂・2012年)、河上暁弘著『日本国憲法第9条成立の思想的淵源の研究』(専修大学出版局・2006年)など。
その他、担当者の経歴・研究内容等については、広島市立大学広島平和研究所ホームページ(http://serv.peace.hiroshima-cu.ac.jp/)を参照してほしい。
備考 受講人数によっては、ゼミ方式を採用する場合もある。その場合、少人数用の教室(広島市立大学広島平和研究所会議室など)に教室変更を行う。また、ゼミ方式の場合には、報告やレポート、平常点等による評価に変更する場合がある。