科目名 情報と社会
単位数 2.0
担当者 河又貴洋
履修時期 前期(集中講義)
履修対象 博士前期課程1、2年次
講義形態 講義
講義の目的 情報通信分野におけるデジタル技術の発達は、その利用運用面での急速な展開を見せ、IoT、ビッグデータ、AI(人工知能)などの活用を通じて産業構造の転換をもたらし、社会経済全体に波及しつつある。すなわち通信と放送といったパーソナルメディアとマスメディアといった発信者と受信者が明確に区分された枠組みを越え、コンピュータ機器を連結したネットワークシステムが巨大かつ重要な社会インフラとなって、送受信者が混成するソーシャルメディアから広大なヴァーチャル空間を創造し、私たちの日々の生活や企業活動、そして社会情勢までをも大きく変革しようとしている。本講義では、情報通信技術(ICT)の発展を俯瞰しながら、社会経済構造の動態、企業活動や消費者行動、さらには国際関係構造に至るまで、様々な関係(ネットワーク)構造に与える影響や問題を把握しながら、それらの影響や問題にどのように対処すればよいのかを議論する。
到達目標 自然科学や応用技術、人文・社会科学の学術区分を超え、「情報化」が社会(生活)、経済(産業・企業)、政治(国家・政府)にわたる諸課題に対する認識理解と解決手段を得る共通基盤となり得るものとして理解し、その応用、発展に寄与し、参画・考察できる。(知識・技能、思考・判断力)
受講要件 特になし
全研究科共通科目の「情報化」と「グローバル化」の教養基礎として全研究科からの受講を期待しております。
履修取消の可否
履修取消不可の理由
事前・事後学修 講義での学習以外にも日々の社会情勢に関心を持ち,報道等で取り上げられている課題(issues and challenges)についてもその背景から核心を理解しようとする姿勢を持ち、課題についての情報を収集し、分析・考察し、その解決に向けて主体的かつ独創的な提案を期待する。
講義内容 第1回(河又)イントロダクション:講義内容全体の概説
講義の全体像と各回の解説、参考図書(資料)を紹介し、講義の進め方や分析の視点について説明する。

第2回(河又)「情報社会60年の歴史的俯瞰」(前史と黎明期)
日本における通信、放送の誕生から、これらの産業技術を取り巻く社会状況を概観し、「情報社会論」がいかに時代の趨勢を捉えてきたかを解説する。

第3回(河又)「情報社会60年の歴史的俯瞰」(発展期と改革期)
コンピュータ産業の勃興から、通信・放送をめぐる制度改革への流れを鳥瞰し、技術革新が産業構造をいかに変革しうるかを考察し、日本における「通信改革」の背景と世界的潮流を理解する。

第4回(河又)「情報社会60年の歴史的俯瞰」(転回期と創造期)
「通信改革」以降の情報通信産業の目まぐるしい転回を「インターネット」の利用普及とそれに派生する新たなサービスの展開、そして移動通信技術の発達による「モビリティ」の活性化、さらにIoTからAI(人工知能)との有機的結合がなされた社会創造を検討する。

第5回(河又)情報通信産業の構造転換と産業生態系
情報通信産業の構造の変遷を技術革新と淘汰の中から読み解き、その生態系を理解する。そこでは、通信インフラ(社会基盤)からインフラを構成するネットワーク関連機器、そしてネットワークに接続される各種端末機器のハードウェアの三層構造から、ネットワーク・インフラを介して連結されるネットワーク・サービスのソフトウェア(アプリケーション)の組み込みまで、インタフェースとモジュラー化のシステム構造の理解を得る。

第6回(河又)課題レポート(1)の作成
講師が指定する教材に基づいた課題についてレポートを作成する。

第7回(桑原)社会における情報化の進展と法制度の課題
社会における情報化の進展に、法制度がどのように対応しているのか(していないのか)、インターネット上の名誉棄損を例に説明する。

第8回(桑原)プライバシー・個人情報保護
プライバシー権とは何か、判例上どのように保護されてきたか、現代的なプライバシー権の課題は何か等について説明する。

第9回(桑原)課題レポート(2)の作成
講師が指定する教材に基づいた課題についてレポートを作成する。

第10回(河又)ネットワーク特性を有する情報通信産業(1)
「ネットワーク外部性(経済性)」を有する産業ゆえの政策課題の歴史的考察を行う。具体的には「ユニバーサル・サービス」問題と自然独占の争点、規制緩和(ネットワークの開放と競争原理の導入)の技術融合、オペレーティング・システムとインターネットをめぐる独占と競争市場などを事例として取り上げる。

第11回(河又)ネットワーク特性を有する情報通信産業(2)
「ネットワーク外部性(経済性)」を有する産業ゆえの現代的課題の考察を行う。プラットフォーマーの出現と独占禁止政策、SNSをめぐるメディア規制問題と個人情報問題などを取上げる。

第12回(河又)情報通信産業の地政経学(1)
軍事産業のコア技術として利用・開発されてきた情報通信技術の地政学的考察を行う。大戦下の通信技術の利用と情報(コンピュータ)技術の開発をめぐる国家間競争、戦後のコンピュータ技術の開発と商用化への道について歴史的に考察する。

第13回(河又)情報通信産業の地政経学(2)
戦略的産業政策によるコンピュータ・ネットワークの支配構造、移動通信技術の標準化をめぐる国際競争から5G導入に際しての国家間対立、海底ケーブル敷設をめぐる国家の思惑と民間ベースでの国際協調について検討する。

第14回(河又)情報通信産業の地政経学(3)
ソーシャルメディア(SNSを含む)の発達とeコマース(電子商取引)の隆盛、電子マネー(暗号資産とデジタル通貨を含む)に関わるFinTech攻防について地政学的観点から考察する。

第15回(河又)課題レポート(3)の作成
講師が指定する教材に基づいた課題についてレポートを作成する。
期末試験実施の有無 実施しない
評価方法・基準 日常点(授業への出席、議論への参加及び小課題提出)40%
課題レポート(3回分)60%
教科書等 初回の講義において紹介、総務省発行の『情報通信白書』(オンラインで無料入手可)を活用する。
担当者プロフィール 河又貴洋(長崎県立大学シーボルト校 国際社会学部・准教授)
桑原俊(順天堂大学大学院医学研究科 客員准教授、弁護士)
講義に関連する実務経験 河又は通信関連の海外コンサルティング会社(開発援助事業)での勤務歴3年と?国際通信経済研究所(社会科学系シンクタンク、現?マルチメディア振興センター)での勤務歴8年を有し、情報通信分野の政策科学的調査研究に従事、現職では情報経済学及び社会情報学を専門とする。
桑原は情報通信総合研究所(社会科学系シンクタンク)10年の勤務経験を有する。
課題や試験に対するフィードバック 履修者の専攻や興味分野に即した課題(レポートテーマ)を設定する。提出されたレポートに対しては総評を行う。
アクティブ・ラーニング
キーワード 情報通信技術(ICT)、ネットワーク産業、プラットフォーム、産業生態系、ソーシャルメディア、IoT&AI(人工知能)、モバイル通信
備考 ・夏季休暇期間中(9月中旬)の平日の水・木曜日2週(「3コマ×2日+3コマ×2日」:河又)、土曜日(「3コマ×1日」:桑原)の計5日間で15コマを行う。・講義の実施形態は原則「面接授業」とするが、状況に依ってはオンライン講義(リアルタイム)での受講が可能なようにハイフレックス方式で行う。