科目名 比較民族学T
単位数 2.0
担当者 准教授 吉江 貴文
履修時期 前期
履修対象 3年次以上
講義形態 講義
講義の目的 講義テーマ:『人間は文書という道具とどのように付き合ってきたのか?』
近代以降の人間社会は、新聞、雑誌、カレンダーといった印刷物の類から、身分証やパソコンのディスプレイ、道ばたで目にする看板に至るまで、さまざまな種類の文書に囲まれた環境のなかでの暮らしを状態としてきた。近代以降に暮らすわたしたちにとって、例えば、「自分が何者であるか」を一枚の身分証というプラスチック・カードの「文書」によって証明したり、衣食住を満たすための基礎的な能力として「読み書き」を身につけることは、ある種、当たり前の状況となっている。
 しかしながら歴史的に文書の役割を振り返ってみると、人と人のコミュニケーションや情報の伝達、思考プロセスの多くを文書という人工物に依拠するような状況が「当たり前」となるのは、ここ200年ほどに遡られる「つい最近」の出来事にすぎない。
 だとするならば、文書という人工物が人間の生活にとって不可欠ともいえるほど、重要な道具になっていった背景には何があったのだろうか。この講義の目的は、以上のような疑問を出発点として、文書と人間の歴史を取り巻く諸問題を検討することにより、文書という人工物が人間の生活や思考にどのような影響を及ぼしていったのかを歴史人類学の視点から解明することにある。
到達目標 ・文書と人間の歴史を取り巻く諸議論について俯瞰的に把握できるようにする(知識・技能)。
・人類学、歴史学、リテラシー・スタディーズ、開発学など、既存分野における文書研究の特徴を総合的に理解する(知識・技能)。
・文書管理実践論の学問的な由来や考え方、方法論等について概略的に説明できるようにする(思考力・表現力)。
受講要件 人間の生存と文書の関わり、読書史・書物史、リテラシー研究、現代世界における発展途上国と文書メディアの関わり、人類進化と人工物の関係など、文書に関わる幅広いテーマに関心をもっている学生を対象とする。
履修取消の可否
履修取消不可の理由
事前・事後学修 下の「参考図書欄」に挙げている書籍は、いずれも講義内容についての理解を深める上でとりわけ有益と考えられるので、学期中に通読することを推奨する。また、セクションごとに講義内容についてのまとめとコメントを提出する。
講義内容 『人間と文書の歴史』

序論: 人間はいかにして文書と関わってきたのか?

セクション1: 生存・リテラシー・文書
 1-1 「読み書き」と生存をめぐる問題系
 1-2 文字の効用をめぐる学際的論争の系譜
 1-3 「声の文化」と「文字の文化」
 1-4 大分水嶺説への批判とニュー・リテラシー・スタディーズ

セクション2: 文書とはどのような道具なのか?
 2-1 「リテラシー」概念の再考
 2-2 リテラシー研究から文書管理アプローチへの転回
 2-3 文書とはどのような道具なのか?
2-4 文書の歴史とモノ・技術・社会

セクション3: 現代世界と文書メディア
 3-1 印刷革命以降の文書と人間社会
 3-2 文書を介した心のキャッチボール
 3-3 文書の洪水のなかを泳ぐ
3-4 産業社会と文書

まとめ:人間と文書の関係史
期末試験実施の有無 実施しない
評価方法・基準 〈成績評価〉
・平常点(セクションごとの課題・小テストなど)60%、期末課題(レポートなど)40%の割合でポイント化し、総合評価に基づいて成績を算定する。
・単位取得の最低ラインは全体ポイントの60%以上。
教科書等 参考図書
@ 中村雄祐 2009 『生きるための読み書き 発展途上国のリテラシー問題』 みすず書房。
A 齋藤晃編 2009 『テクストと人文学 知の土台を解剖する』 人文書院。
B 吉江貴文編 2019 『近代ヒスパニック世界と文書ネットワーク』 国立民族学博物館。

その他の参考図書については、講義の中で適宜、関連文献リストを配布する。
担当者プロフィール 専門領域は歴史人類学(ラテンアメリカ、スペイン)、文書研究。

1993年より、ボリビア、ペルー、スペインを中心にフィールド調査を行っている。現在の研究テーマは『近代ヒスパニック世界における文書ネットワークの成立と展開』。

・国際棟734研究室。

講義に関連する実務経験
課題や試験に対するフィードバック 授業のなかで提示する課題(レポート等)については、適宜、評価し、模範解答、注意点、コメント等を対面授業、およびWebClassによって示す。
アクティブ・ラーニング PBL、TBL、ディスカッション、振り返り。
キーワード 文書管理実践論、人類史、人工物、リテラシー、歴史人類学。
備考